【歯周病】に関する内科医からの質問
2021年10月 梅新デンタルクリニック
院長 米村 幸城
Q1、歯周病で悩んでいる、あるいは悩まなくてはならないのに気にしていない人は山ほどいると思います。以前から、心疾患や認知症との関連が指摘されていますが、今一つ注目されていないような気がします。僕は原因不明の慢性的な倦怠感のいくらか、あるいは原因不明のCRP軽度高値が続いている人のいくらかは歯周病が原因ではないかという「仮説」を立てています。
A1、ご推察の通りだと思います。重度の歯周病の場合、歯周ポケットの内面上皮は潰瘍を形成しており、『潰瘍面の総面積』は『手のひらの面積!』に匹敵するそうです。つまり、細菌やその毒素(LPS等)にとって、潰瘍面は格好の“侵入門戸”となっていると考えられます。当然、ご指摘のような全身疾患への関与の可能性が強く示唆されています。さらに、身体の抵抗力・免疫力の低下も懸念されます。
ただ、慢性的な微量の持続感染症で、しかも、微生物の種類も膨大ですから、直接的な因果関係を医学的にクリアーに証明するのは非常に困難でしょう。そもそも、高齢者の場合、歯周病の非罹患者(Negative Control)を見つけること自体困難ですから、「疫学研究者」泣かせの疾患だと思います。1998年、アメリカの歯周病予防キャンペーン【Floss or Die!】は衝撃的でした。
Q2、歯周病は、今一つ注目されていないような気がします。
A2、歯周病には、残念ながら、高価な特効薬は存在しません=製薬企業は儲からない!お金にならない以上、注目されないのも当然でしょう。しかも、歯周治療は保険医療では不採算部門!です。歯周治療をするよりも“抜歯” →“インプラント”“抜歯” →“ブリッジ”の方が圧倒的に儲かりますから。
結局、基本は今も昔も、
*歯周病の予防は、糖類の摂取制限と『デンタルフロス』or『歯間ブラシ』
*歯周治療は、麻酔下での、歯肉縁下歯石の除去と咬合治療です。
また、【歯列不整が無い】という条件ならば、なるほど電動歯ブラシの清掃効果は高いです。ただし、臼歯部の隣接面(歯と歯の間)の清掃性は低いままです。
しかし現実には、歯列不整のある人の方が圧倒的に多く、加齢に伴いさらに悪化傾向を示します。なぜなら、人類の歯周病の罹患率は非常に高く、高齢者の罹患率は、ほぼ100%だからです。
つまり、歯列不整のある人が人口の大部分を占める以上、電動歯ブラシのみでは、 隣接面(歯と歯の間)のプラーク除去率は30%程度でしょう。しかも、隣接面(歯と歯の間)こそが、「虫歯」と「歯周病」の好発部位なのです。そこで、必須となるのが『デンタルフロス』or『歯間ブラシ』なのです。
Q3、フロスをしている人はほとんどみたことがありません。もしかすると、そんなに普及していないのでしょうか。だとすれば なぜなのでしょう。
A3、実は、歯科保険診療は薄利多売で医院経営が成り立っています。故に「虫歯治療」においても、時間をかけた丁寧な治療は困難です。その結果、虫歯の取り残しと精度の低い充填物や補綴物が散見されます。
このような状態の医院では、決してデンタルフロスは勧めません。むしろ、『フロス禁止令』を発動するくらいです(笑)
なぜなら、精度の低い処置歯にフロスを使用すると、「フロスが切れる・ほつれる・外れない」等のクレーム噴出が必至だからです。しかも、治療後なのに、銀歯・レジン・セラミックス等が、短期間で、脱離!する可能性も高くなるから尚更ですね。
つまり、フロスを患者様が使用すると、手抜き治療が白日の下に晒されてしまうので、フロスは、歯医者泣かせのアイテムでもあるのです。
逆説的に、フロスを積極的に勧める医院は良心的でしょう。